化学系の学部・大学院出身者のホワイトカラーキャリアについて(コンサル・商社・官公庁・その他進路)
前の記事などでも書きましたが、私は旧帝大の大学院を卒業し、大手のメーカーに入ったものの、あまりの「人生行き詰ってる感」に堪えられず、5年目の冬に転職活動をし、大手町のコンサルティングファームにインダストリー部門のコンサルタントとして中途入社をしました。
その際に考えたことを共有させていただければと思います。
私は、もともと高校生の時は「エネルギー業界を変えられる仕事」がしたいと考えておりました。
高校生当時、2010年くらいですが、新聞やテレビのニュースなどでも良く環境に関する項目が取り上げられていました。若者心ながらにこの分野は将来ますます重要になってくる、と根拠のない自信もあり、京都大の工業化学科に進学しました。
太陽光発電のパネルがもっと安価になれば再生可能エネルギーの未来は大きく変わるのではないかと思っていたのです。
しかし、とても調査が甘かったのですが、京都大学は再生可能エネルギーの研究の知名度はたいして高くないのです。
そもそも、世界大学ランキングで10位以内に入っていない大学で、その研究機関で研究したところで、エネルギーの需給構造を変えられる可能性があるのでしょうか。目標に対して最短のルートを選ぶべきなのに、なんとなく進路を選んでしまったことは非常に勿体なかったと思っています。
なんとなく環境関連の目線で研究できる分野として、光触媒の研究室を選択し、それなりの研究を2年間やって就職を迎えました。
就職の際には、国家総合職(当時は特許庁を狙って経産省)の受験も考えましたが、研究にある程度時間が割かれてしまうこともあり、断念しました。
ただ、これも勿体ない決断でした。しっかり対策して受験だけでもすべきだったと思います。
これには理由がありまして、今になって思うと、日本の産業構造を動かしているのは、大きく分けて二つの力だと思っていて、そこに入れるかどうかが私の夢であった「エネルギー業界を変えられる仕事」に就くための筋道だったと思うからです。
大きな力の一つは、行政による強制力です。
少し話が飛んでしまいますが、私達の支払う電気料金には再エネ賦課金が上乗せされています。この賦課金システムを導入したのは、資源エネルギー庁が置かれている経済産業省です。
太陽光発電の導入がある程度日本で進んだのは、再エネ賦課金が私達の日々払っている電気代に上乗せされ、パネルを設置した人に還元する形でお金がばらまかれているからだと考えています。そのような、国民から税金や制度として強制的にお金を徴収し、事業を促進する方向性が示されたときに、企業がそれに反応して産業構造が変わっていくような動きが、この10年ほどで起きていたように思います。(とはいってもなかなか普及率には厳しい部分がありますが)
つまり、お金の流れを強制操作し、産業構造そのものを変える力があるのが行政だということです。
もう一つの大きな力は、ビジネスモデル(収益構造)の変革です。
最近で言うと、既存のビジネスモデルから大きく変革した事例はたくさんあると思いますが、殊、産業部門などで例を挙げると、TESLAの電気自動車などが良い事例かなと思います。
参考までに下記の記事から内容を抜粋します
・【知れば知るほどワクワク】テスラのビジネスモデルがヤバい! | 旅リーマンどっとこむ (tabiryman.com)
・テスラの練り上げられた作戦に脱帽してしまう訳 | 経営 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)
簡単に記事を要約すると、
・イーロンマスク自体が広告塔
・初期は富裕層向けの高級車路線だった
・デザインが革新的
といったような項目が、日本の自動車メーカーとは異なる点としてあげられます。(日本は比較的、大衆向け路線で、素人から見るとどれも同じような形ですよね)
ここで言いたいことは何かというと、
もちろんTESLAの車には、日本の車と同様かそれ以上の先進的な技術(例えば蓄電池や、車全体を統率するAIなど)が組み込まれていますが、
いくらその技術が便利で、環境にやさしい、倫理的には買うべき存在だとしても、「その商品が売れるかどうかは全く別次元の戦いに懸かっている。」ということだと思っています。
つまり、技術的には成熟しているとしても、「魅力的だと思ってもらえる商品」でなければ売れないという当たり前のことなのですが、案外これが、実現するとなると難しいことになってきていると思うのです。
序盤の、太陽光パネルの事例に戻ってみますが、
もし仮に、太陽光パネルが、
・美しいデザインで
・富裕層向け(初期)
といった、これまでのエネルギー市場にない価値観を持ち込むことができていたら、ある程度市場が開拓されることで、製品コストが下がり、大衆も容易に導入できるようになっていた可能性はあったのかなと思います。
改めて、キャリアの話に戻ります。
上記の二つの大きな力の事例から考えるに、
エネルギー業界(や、既に大企業がたくさんある化学業界など)が今後大変革していくには、やはり二つの道もしくはその両方を同時に進めるしかないと思っています。
①行政面から、ある程度の強制力を持って、多少の犠牲を払いながら産業構造を変革していく(例えば水素を中心とした社会や、再エネを中心とした社会へ進むインフラ整備等を税金で実施していく)
②今後変革していきたい方向性に、技術とは異なった視点で、新たなキャッシュフローを生み出す構造を持ち込む(顧客層の深堀、ブランディングなど)
これらの事をやろうと思うと、企業に雇われている技術者では、正直退職するまでに達成することは難しいでしょう。
そうなると、どういった選択肢があるのか、改めて考えてみました。
安易ですが、以下のような業種に携わることができれば、遠からず近からずといった何かしらの形で、変革に参加できるのではないかと思います。
①行政面からの変革をする場合
・省庁、地方公務員等
・パブリックセクター向けコンサル
・商社の産業部門
②ビジネスモデル(収益構造)の変革をする場合
・大企業の企画室
・インダストリー向けコンサル
・商社の産業部門
・スタートアップ企業、大学発ベンチャー
いずれも、企業の研究者という選択肢は出てきません・・・・
いわゆるホワイトカラーの職種になります。
ここで私が言いたいことは、
研究者になる意味がない、ということではないです。
やはり研究者になること自体には夢があると思いますし、研究者の積み重ねてきた実績が、商品になっていることは間違いない事実だと思います。
ただ、今の日本の企業は良い意味で盤石の体制であり、新しいビジネスや、大きな変革にはなかなかついていけません。特に、「技術はあるけど、既存インフラを壊したくない」とか「技術はあるけど、投資できない」といったことが、とても多いような気がしているのです。(前職の経験から)
せっかく研究者が作った技術を、なぜ使わないのか私にはよくわかりません。儲からないから、という理由なら儲かるビジネスモデルや仕組みを考えなければなりません。既存インフラを使えないからという理由なら、投資するための余剰資金を生み出さなければなりません。
そういった仕事はホワイトカラーの最も重要な役目の一つではないかと私は思います。
研究開発とコーポレート機能はどちらが欠けても会社としては成り立ちません。しかし、今の日本のエネルギー・メーカー企業群は、どこか、その両者がそれぞれ独自に進化してしまった感が否めないなと思っています。
私としては、自分がその両者をつなぐ役割であり、上記を成し遂げられる人物でありたいと思っていますし、そういった方が今後、たくさん出てきてくれて、いろんな技術をどんどん実用化できる社会が来ることが、業界の発展に役立っていくんじゃないかなと考えています。